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歯科医院経営で“今”やるべきこと【4】スタッフとのコミュニケーションギャップを取り除こう

2013年09月16日

(1)十分に時間をとって話し合っても、コミュニケーションギャップは生じる

「うちのスタッフは、何度いっても変わらないんです」

「指示をしても、そのとおりに動かないんです」

「少し注意をすると、すぐに拗ねるんです」

――そんな声を、院長先生方から聞くことがあります。
そして、最後に出てくるのは、決まって

「いい子なんだけど、仕事では使えない」

といったスタッフに対する評価です。

でも、本当にそうなのでしょうか?

スタッフの最終評価を下す前に、考えなければいけないことがあります。
スタッフが変わらない、いうことを聞かない、反発する……というのは、スタッフの性格に原因があるのではなく、コミュニケーションギャップが起こっているためかもしれませんよ。

コミュニケーションギャップとは、相互に理解しあうべきコミュニケーションで、その理解の仕方や価値観の相違、情報の不足などにより、食い違いを見せることです。

こんな話をすると、「うちは、しっかり時間をとって、スタッフとの話をしています」という声が聞こえてきそうです。
多くの人は、コミュニケーションに十分な時間をとって話をすれば、理解してもらうことができ、コミュニケーションギャップは起こらないと思っています。
しかし、実はそうではないのです。

P・F・ドラッカーは、著書『プロフェッショナルの条件』の中で、次のようにいっています。

――情報が多くなっても、その質がよくなっても、コミュニケーションに関わる問題は解決されないし、コミュニケーションギャップも解消されない。逆に、情報が多くなるほど、機能的かつ効果的なコミュニケーションが必要になる。つまり、情報が多くなれば、コミュニケーションギャップは、縮小するどころか、むしろ拡大しやすくなる――

このように、しっかり時間をとって話をすることと、コミュニケーションギャップがなくなることは関係がなく、それどころか、質の良くない大量の情報は、逆にコミュニケーションギャップを引き起こすのです。

(2)ポイントはスタッフの受け入れ範囲を考慮して伝えること

では、「質の良い情報」とは、どういった情報なのでしょうか。

コミュニケーションは、受信者が情報を受け取ることで、はじめて成立します。

たとえば、院長はよく「何度いっても変わらない」「指示をしても、そのとおりに動かない」といいますが、いっていることが正論でも、その情報が相手に受け入れられなければ、コミュニケーションは成立しないのです。
そして、正しい意見だからといって、常に相手に受け入れられるわけではありません。

もう一つ。
ドラッカーは、著書『マネジメント』の中で、こんなことを述べています。

――コミュニケーションを成立させるものは、受け手である。コミュニケーションの内容を発する者、すなわちコミュニケーターではない。彼は発するだけである――

この言葉からは、コミュニケーションギャップが起こるのは、受け手に責任があるように見えますがそうではありません。

ドラッカーは「受け入れる」「受け入れない」の判断は受け手に委ねられているからこそ、コミュニケーションを成立させるには、受け手側の「受け入れ範囲」を知り、受け入れられるように伝える必要があるといい、受け手は「自分が期待していること」だけを受け入れ、「知っている言葉」で語られた時にのみ受け入れるといっています。

つまり、スタッフに何度いっても変わらない、動かないという状況が起こるのは、受け手であるスタッフのせいではなく、話し手である院長に問題があるということです。
受け手の「受け入れ範囲」は思っているよりもはるかに狭いと思うべきです。

もちろん、これは相手に媚びて、耳に痛いことをいわないということではありません。

「自分は経営者で、あなたは雇用者。だから、僕のいうことをなんでも聞くべきだ」という感覚を持っていると、どうしても受け手に押し付けてしまいます(院長にその気がなくても、受け手は押し付けられている感覚を持つものです)。

そうではなく、相手の受け入れ範囲を配慮して情報を伝えるということ。
そういった相手に対する配慮された情報こそが、「質のよい情報」といえるのです。

受け入れ範囲に例外があるとすれば、似たような価値観や背景を持った者同士である場合です。
たとえば、院長たちが集まって、スタッフの話をすると、共感できることがたくさんあるでしょう。
それは、同じような立場にいるため、価値観などが似ているからです。

ですから、このような状態を、スタッフとの間に築くためには、たとえば「これをしてはいけない」と注意をするだけでなく、なぜ自分が、そうしてはいけないという価値観を持っているのか。
そして、そういった価値観を持つようになった背景を話すことで、受け手は話を理解しやすくなります。
これを「同質化」といいます。

コミュニケーションは、価値観も背景も異なる両者の間で行われます。
だからこそ、相手への尊重や配慮がなければ、それを成立させることができないのです。

 医療法人社団いのうえ歯科医院理事長
 歯学博士・経営学博士
 井上 裕之 ⇒ http://www.inoue-dental.jp/