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イルカの歯のふしぎ その7/イルカの歯周ポケット測定

2013年07月26日

いよいよイルカのポケット測定の日。
早朝の水族館では、すでに多くのスタッフが作業を始めていた。
プールの水を抜き、イルカをクレーンでプールサイドまで引き上げるためだ。

「こんなに朝早くから・・・。」スタッフの方々のイルカに対する愛情の深さに、しばし感動。

(図1)

最初の一頭は、プールサイド上で行う。
イルカの体を固定し、開咬器を用い口腔内検診。
若いイルカは、歯も歯周組織もたいへんきれいである。
まず、見やすい下顎の前から歯周ポケットの測定開始。
横でチャート用紙に記入しながら行う。
イルカの歯肉は厚く、歯に強固に付着している。
歯周ポケットは、ほとんどが1ミリ。これがイルカの正常値だ。

(図2)

しかし、この作業。
簡単ではないことに、すぐに気がついた。
スタッフが固定しているが、イルカが耐えきれなくなり動く。
その度に、どの歯まで測定したのかわからなくなる。
何せイルカの歯は、すべて同じ形の同形歯性。
しかも片側に18~26本もの歯がある。
ヒトのポケット測定が、いかに楽かがよくわかる。
そこで、歯にマジックで印をつけながら行った。

(図3)

さらに難しいのが、上顎の歯。
歯が直視できないのだ。
でも水中では、別問題。
スタッフが指示をすると、体を回転させて上顎の歯を見せてくれた。
さすが!イルカはお利口だ。

(図4)

しかし、歯クジラの仲間。大型のサカナを食べる“オキゴンドウ”。
歯が大きく、イルカほど従順ではない。この歯で咬まれたら大ケガだ。
しかもなかなかじっとしてくれない。
スタッフに測定をお願いしたが、それでもダメでやむなく中止。

(図5)

さてイルカも年齢に伴い口腔内が大きく変わる。
まず歯が、摩耗し歯冠が短くなる。
ポケットも次第に深くなる。
歯軸の傾斜やポリープがある部位は、3~4ミリとさらに深かった。

(図6)

ある高齢のイルカでは、歯肉が大きく剥離し5~6ミリに達し、歯肉縁には沈着物が見られた。
さらには、剥離した歯肉に相当する部位に外歯瘻まであるではないか!!
おそらく歯肉からの感染によるものだ。

(図7)

現在、水族館のイルカの世界も高齢化が進んでいる。
彼らを長生きさせるにも、口腔のチェックが必要な時代になってきた。

 前 岡山大学病院 小児歯科 講師
 モンゴル健康科学大学(旧:モンゴル医科大学) 客員教授
 歯のふしぎ博物館 館長(Web博物館)
 岡崎 好秀 ⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/