MAIL MAGAZINE メールマガジン

労務問題でつまずかないためのQ&A【6】スタッフを叱ることもパワハラになるの?

2013年01月18日

Q 仕事上でミスをしたスタッフを叱ったら、「その言い方はパワハラです!」といわれてしまいました。
スタッフを指導したり、注意をすることは当然に必要なことだと思うのですが、それさえもパワハラになるのでしょうか。

A 業務上の必要性にもとづいた指示・注意・指導ということであれば、そのことをスタッフが不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている限り、パワーハラスメント(パワハラ)には当たりません。

最近では、上司や先輩からの自身に対する評価が低いことを不満に感じたり、また気の合わない上司や先輩からの指導を不満に感じたような場合にも、「パワハラ」だと言い出すケースも見受けられます。
パワハラという言葉の社会での認知度が高まる一方で、パワハラという言葉だけが独り歩きしてしまい、パワハラの定義を誤解していることによって生じているトラブルも出てきています。

厚生労働省では、職場におけるパワーハラスメントを

「同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
と定義づけています。

つまり「業務の適正な範囲」で行われている指導や注意は、たとえスタッフ側がそのことを不快もしくは不満に感じたとしても、パワハラにはならないということです。

院長をはじめとした上司の立場にある者は、部下であるスタッフに対して教育し、指導する義務を負っています。
医院を適正に運営していくためにも、スタッフがミスを繰り返したり、怠慢な勤務をとっていた場合、これを放棄することはできません。
パワハラにならないよう神経質になるあまり、スタッフに対して何も指導できないようでは、医院の運営にも支障をきたすことになってしまいかねません。

ただし、どんなに問題行動が改善されないスタッフに対するものであったとしても、次のような場合は「業務の適正な範囲」を超えているとして、パワハラに該当すると判断されてしまうことになります。

(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

全スタッフの前でひとりを名指しで叱責するようなことを繰り返したり、「親の顔が見てみたい」とか「どんな育てられ方をしてきたの」などといったりすることは、上記(2)の精神的な攻撃にあたるといえます。

深夜にわたっての技術指導を、連日のように繰り返したり、逆に医院内の清掃業務しかさせないなどといったことは、上記(4)過大な要求や、(5)の過小な要求として「業務の適正な範囲」を超えていると判断されてしまいます。

いくらスタッフの成長のために、スタッフのやる気を喚起するためにということであったとしても、やりすぎるとパワハラになってしまうということです。
スタッフを叱らなければならない場面でも、「行為を叱って、人を叱らず」ということを意識していただくとよいでしょう。

ちなみに「叱る」と「怒る」は異なります。
「叱る」というのは、スタッフの言動などのよくない点を指摘することで、スタッフの成長を思う気持ちにもとづくものです。

これに対し、「怒る」というのは、自身が不快な思いをしたりしたときに沸き起こる「感情」のことで、その感情をスタッフにぶつけていると受け止められてしまいます。
怒られたスタッフは反発心や不信感を抱きます。
スタッフを「怒る」ことは、パワハラを引き起こしやすいといえます。

なお、パワハラは言動のみによって起こりうるものではなく、スタッフに対する態度がパワハラを生み出していることもあります。

たとえば、スタッフから質問などをされたときに、「ちぇっ」といった舌打ちで返したりはしていないでしょうか。
また、スタッフからの何らかの報告があった際に「はぁ」などといったため息で返したりしていないでしょうか。
このような態度は、本人にそのような意識はなくても、相手は拒絶されたとか、バカにされたといった感じを抱くことがあります。

パワハラは、スタッフに対する態度やしぐさ、場合によっては雰囲気でも生じることがあります。
普段何気なくとっている周りのスタッフに対する自身のくせやしぐさも、この機会にいちど見直してみてはいかがでしょうか。

   社会保険労務士法人 フォーブレーン
   代表   稲好 智子
 ⇒ http://www.fourbrain.co.jp