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労務問題でつまずかないためのQ&A【4】規模に関係なく就業規則や雇用契約書は必要か?

2012年12月14日

Q 一般企業から転職してきたスタッフの1人から、就業規則はないのかと聞かれました。
このスタッフからは、採用時にも雇用契約書は交わさなくてよいのかと聞かれています。
当医院はスタッフ数も少ないため、これまで就業規則も雇用契約書も作成していません。
そのことで、何かトラブルになったというようなことはありませんが、就業規則や雇用契約書は作成しなければならないものなのでしょうか。

A スタッフに安心して働いてもらうため、また無用なトラブルを避けるためにも、就業規則や雇用契約書は作成すべきでしょう。

労務管理をめぐるトラブルが増えています。
厚生労働省が各都道府県労働局等に設置している総合労働相談コーナーに寄せられる相談件数は、年間110万件を超えています。
日本の雇用者数(企業や法人等に雇われて働いている人)が約5,500万人となっていますので、そのうちの50人に1人の割合で、何かしら労務管理に関する悩みや不満を抱えているといえます。

このような労務管理めぐるトラブルを引き起こしている要因のひとつとして、雇用契約内容のあいまいさがあげられます。 「もっと給与をもらえると思っていたのに・・・」
「残業なんてないって聞いていたのに・・・」
「退職金はもらえると思っていたのに・・・」 といったスタッフ側の期待と現実とのかい離が、トラブルになっているケースが多くみられます。

そのような雇用契約内容のあいまいさを解消し、スタッフに安心して働いてもらうために必要なのが就業規則といえます。

就業規則というのは、その医院で働くスタッフの給与や勤務時間などの労働条件全般について定めるものです。
いわば「この医院で働いてもらう代わりに、これだけの労働条件(給与額や休日数など)は保証するよ」という、医院からスタッフへの約束事を示したものといえます。

この約束がないと、スタッフは「院長のさじ加減ひとつで給与の額が増減されてしまうことがあるんじゃないか」といった不安をもち、仕事に対するモチベーションの低下につながりかねません。
就業規則によって、スタッフの労働条件を確保する約束をすることによって、スタッフに安心して働いてもらうことができます。

また、就業規則は、医院からスタッフに対する約束事だけでなく、スタッフが医院で働くにあたっての約束事も定めることになります。
職場は、複数のスタッフが互いに協力しながら働く場所です。
それぞれが勝手に好きなように行動していたのでは、円滑に仕事をすすめることができなくなってしまいます。
就業規則を示すことによって、スタッフ1人ひとりに医院のルールをよく理解してもらい、医院の秩序を良好に保ちながら仕事をしてもらうという役割もあります。

ちなみに、この就業規則は、労働基準法において作成が義務づけられているものですが、今のところ常時雇用しているスタッフ数が10人に満たない場合には、この義務が免除されています。
しかし、スタッフ数が少ないからといって、労務管理に関するトラブルがないというわけではありません。
このようなトラブルの発生を防ぐためにも、スタッフ数が少ない医院においても就業規則は作成しておくべきでしょう。

では、雇用契約書はどうでしょうか。
就業規則が医院で勤務するスタッフ全員の労働条件や職場でのルールを統一的に定めたものであるのに対して、雇用契約書は個々のスタッフの労働条件等を定めて個別に交わすものです。

雇用契約書は、必ず交わさなければならないものではありません。
ただし、労働基準法では、スタッフを採用する際には、労働条件にかかわる次の事項を書面で明示するよう義務づけています。

(1) 雇用契約期間
(2) 勤務場所、従事すべき業務内容
(3) 始業時刻・終業時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務
(4) 賃金の決定方法、計算方法、支払方法、計算期間、支払時期、昇給
(5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

たとえスタッフが1名しかいないという場合も、同様の義務が課されています。

この労働条件を明示する際に、医院側から一方的に書面を交付することでもかまいませんが、スタッフ側も医院側から示された労働条件の内容に合意したということを証するために、雇用契約書として上記労働条件を示した書面を双方で取り交わすという方法をとっている例も多くみられます。

就業規則同様に、後に無用なトラブルになることを避けるという意味では、雇用契約書としてスタッフ個々に労働条件を明示し、双方で取り交わしておくことが望ましいといえます。

   社会保険労務士法人 フォーブレーン
   代表
   稲好 智子
 ⇒ http://www.fourbrain.co.jp