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【6】これからの根管治療の大問題

2018年03月19日

本コラム連載では、「根管治療で失敗する本当の理由」の内容についてトピックス的にコメントしてきました。

最終回となる今回は、急速な少子高齢化や人口減少が進行するなか、根管治療歯の長期保存を図るためには、

「何が問題になるか?」「解決策はあるか?」

などについて考えてみたいと思います。

私たちは全身の健康維持のために長期間自分本来の歯を口腔内に保存し、
口腔機能させることをこれまで以上に求められています。

最新式の機械であっても寿命があるように、
私たちの天然の歯にも寿命があっても不思議ではありません。

不幸にして、歯の生命を脅かす重い病気に陥った場合、
その歯を救済する基礎治療の1つは根管治療です。

しかし悲しいかな、根管治療の技術は歯科疾患の疾病構造の違いが個々により著しいこともあり、
あらゆる世代の人びとに臨機応変に対応できるまでの水準には至っていないと思われます。

今後、さらに少子高齢化の傾向が強まることから、
さらなる試練を乗り越えるための知識と技術革新が求められます。

若年者であれ、高齢者であれ、根管治療の基本原則に大きな違いはありません。

しかし、若年者の歯は成熟していないこと、
高齢者の歯では過酷な生活環境に長期間さらされていたことなどを考えると、
同一基準で治療することに少々不安を感じます。

少なくとも機械力により両年齢者の根管治療を効率的に実行することではありません。

若年者と高齢者の歯については、生理学的および解剖学的な知識を働かせ、
4臨床現場で慎重に対応することが大切です。

・高齢者の根管治療

高齢者の歯髄腔は生理的あるいは修復処置などに反応して、
狭窄や石灰化などが生じて縮小し、根管治療が必要に迫られた際に障害となることはよく知られています。

加齢による歯髄腔の狭小化や真性象牙粒に代表される石灰化物は、
細菌感染をともなわない石灰化と考えられ、
臨床的には歯髄処置の予後は比較的良好とされています。

一方、う蝕などの処置に続発して、歯髄組織内に異所性石灰化物を形成して狭窄して未通根管の原因になった場合には、
細菌感染の可能性が高くなり、抜髄治療や感染根管治療は難易度が増し、その結果根管治療は失敗に陥りやすくなり、再治療の可能性も高くなります。

最近では根管口の探索や未通根管に対し、
歯科用CBCT撮影またはマイクロスコープなどによる術前診断や術中治療で以前よりも良好な治療成績が期待されています。

新たな問題として、根管治療や補綴処置を受けてかなり経過して、
歯根破折という致命的事故を引き起こすケースも増えています。

歯根破折の多くは根管治療歯に生じます。

長寿社会に向かって、患者さんの生涯にわたり機能可能な治療歯は、
今後の大きな臨床課題といえます。

早急に取り組むべきことは、歯科医師の技術的便宜面を考えた過剰な髄室開拡や根管拡大、
過大な根管充填圧などを避け、できるだけ本来の歯質を残して歯根の強度を維持することであります。

・若年者の根管治療

永久歯は歯根の形成が1/2~2/3になると萌出を開始し、
根尖孔はラッパ状に大きく開いて未完成状態です。

若年者の歯根未完成歯の歯髄は、
豊富な血管と良好な循環系が存在するため歯髄の生活力は高く、
十分な治癒能力が期待できます。

う蝕病巣を確実に除去し、
歯髄に加わる細菌性刺激を除去することで歯髄組織は治癒方向へ好転します。

しかし、いったん歯髄が壊死(失活)すると、根管が太いまま歯根形成は停止し、
歯根象牙質は菲薄で脆弱なままとどまるため、通常の感染根管治療はいっそう難しくなります。

その後、根管充填処置歯の経過不良となる歯根破折を引き起こしかねないのです。

そこで最近は、従来のアペキシフィケーションの治療法の欠点をカバーした歯髄再生療法であるリバイタリゼーションが臨床に導入され、
失活歯の根管内容物を除去後に根管内に歯髄幹細胞とスキャフォールド(血餅)を誘導し、歯髄を新生し、
根管壁硬組織を形成させて歯根を完成させる治療法が注目されています。

これまでは歯根未完成歯が失活した場合、
アペキシフィケーションが最初に選択される根管治療とされてきました。

しかしこれからは,まずリバイタリゼーションを実施し、
その結果が思わしくなければアペキシフィケーションを選択することになります。

リバイタリゼーション治療中に根尖部から出血がなく、
患者が強い痛みを訴えるようであれば、
次の治療ステップとしてアペキシフィケーションに移行しても決して手遅れにはなりません。

根尖部病変を有する若年者の歯を抜歯せずに長年にわたり保存することは、
歯数を確保し、歯列の安定と咬合機能の維持を図るうえで大切であります。

普通の人びとが充実して100年間生きられる時代が来るとも言われています。

お口の健康は全身の健康にも通じることからも、
歯科医師にはしっかりと歯を守る治療法を身につけることが求められているのです。

日本大学歯学部前教授
鶴町 保
http://www.quint-j.co.jp/shigakusyocom/html/products/detail.php?product_id=3189