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【5】炎症と歯周治療の問題点

2018年03月05日

前回(第4回)は、生体の内部環境と外部環境の話をしました。

生物が生命を保つためには、
絶えず外部環境の影響を否応なく受けることになります。

外部環境の生体への作用は「刺激」とよばれます。

その刺激のうち、生体にとって有益で、必要なものは生理的刺激で、
不必要かつ有害な刺激は病的刺激と区別されます(文献1)。

生体はこれらの刺激に対して「反応」を示しますが、
病的な刺激に対する生体の応答(環境に対する順応)が[炎症]です。

炎症のプロセスはきわめて複雑で、
免疫との関係をも説明すると膨大な量となります。

炎症も免疫も同じ「生体の防御反応」ですが、端的にいうと、
防御反応を形態学的に説明したのが炎症、機能的にアプローチしたのが免疫、
ということもできます。

炎症は、
「血管結合組織における生体防衛反応で、滲出(血液成分が血管の外に出ること)が主な変化」
と定義することができます。

急性炎症において顕著な滲出機転から慢性炎症で出現する免疫応答の間の組織の変化を漫画で表現したのが図1です。

※図1 歯周炎(下野正基.やさしい治癒の仕組みとはたらき.東京:医歯薬出版,2013より引用)

 
歯科衛生士教育に携わる先生からの、
「歯周炎における炎症・免疫の変化を1枚の模式図で描いてください」
との依頼に応えるために、御茶ノ水の画材店「レモン」から透明水彩絵の具を購入して、2週間の時間をかけて描いたものです。

講演会では受けをねらって、
「着想1週間、制作1週間、下野画伯渾身の傑作です」と紹介しています(笑)。

ポイントはマクロファージが「抗原提示」能をもつことと、
Tリンパ球が放出するサイトカインによって組織は破壊される、
ということです。

エンドやペリオに代表されるように、
歯科領域における疾患のほとんどが炎症と密接に関連しています。

エンドとペリオにおける炎症の違いについて考えてみましょう。

エンド病変の病原因子は、
口腔内の常在菌が壊死歯髄、根管壁、象牙質あるいはセメント質に定着して病原性を発揮するので、日和見感染的に発症し、
単一のまたは特異的病原因子は存在しない、とされています (文献2)。

外部環境との関係でいえば、
エンド病変は接着性セメントなどを用いて歯冠側を完璧にシールすれば、
微小漏洩を防ぐことができ、病変部は完全に外部環境とは遮断され、
治癒が促進することがわかっています。

一方、ペリオ病変の原因は、
いわゆるレッド・コンプレックスと呼ばれる細菌が歯周組織を破壊します。

外部環境との関係を考えますと、たとえばフラップ手術を行い、
ルートプレーニングの後、歯肉弁をもとに戻して縫合しても、
歯周局所の血管結合組織(内部環境)と口腔(外部環境)の間には両者を遮断するものは何もなく、
いわゆる傷口が開いた状態(開放創)となっています。

したがって、プラークは除去しても細菌が増殖して歯に付着すれば歯周組織の開放創から侵入するので、炎症が再発したり、
慢性炎症の経過をとることになります。

「慢性炎症とは治癒が妨げられた状態frustrated repairである」(文献3)ので、
炎症の原因が取り除かれていない状態を意味します。

このように処置した局所の「閉鎖環境」を維持できないことが歯周治療の大きな問題点ではないか、と考えました。

解決法は、「スーパーボンド」の歯周外科への応用です。(なお、当解決法は薬事適用外情報となります)

スーパーボンドの高い生体親和性は良く知られています (文献4)。

歯肉パックのように、スーパーボンドを用いて歯肉弁と歯とを接着させ、
唾液やプラークが侵入できない「閉鎖環境」を作るのです。

動物実験では、歯肉断端からの再生上皮とスーパーボンドの間には
ラミニンおよびインテグリン(接着タンパク)が発現して
生物学的な接着が起こることが示されています(文献4、5)。

GTRのメンブレンの固定にも応用可能です(文献6)。

参考文献
1.鈴江懐、小林忠義(編).病理学総論 第2版. 東京:医学書院,1967.
2.須田英明(総監訳).バイオロジーに基づいた実践歯内療法学.東京:クインテッセンス出版,2007.
3. Trowbridge HO,Emling RC(著),下野正基(監訳).やさしい炎症論. エンド・ペリオの理解のために. 東京:クインテッセンス出版,1990.
4.下野正基.新編治癒の病理.東京:医歯薬出版,2011.
5.Tsuchiya et al.Effect of the dental adhesive, 4-META/MMA-TBB resin, on adhesion and keratinization of regenerating oral epithelium. J Periodont Res 2009; 44: 496-502.
6. Tomita et al. Application of 4-META/MMA-TBB resin for fixation of membrane to tooth in guided tissue regeneration in dog. Dent Mater J 2010; 29:690-696.

東京歯科大学名誉教授
下野 正基
http://www.quint-j.co.jp/shigakusyocom/html/products/detail.php?product_id=3520